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「非線形数理レクチャーシリーズ,2007」

最終更新日: 2008年1月10日


第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回


第1回: 金平糖の形の自己組織
講演者: 早川 美徳 氏 (東北大学理学研究科)
日時: 2007年5月29日(火)午後4時30分から6時まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
金平糖の角はどのように生え、角の大きさや本数はどうやって決まるのだろうか。 これに明快に解答することのできる物理的なモデルや理論は、意外にもまだ知られていない。 もし金平糖が雪の結晶のような樹枝状結晶成長の一例であるとすると、 従来の理論から予想される角の大きさは目で見るのが不可能なほど小さくなるはずである。 ところが、現実には数ミリメーター程度の角が観察される。それは何故であろうか。 金平糖の成長過程では、角の間隔や角の数があたかも「自動的に」調整されるように見えるが、 それはどのようなメカニズムによるのであろうか。
こうした疑問に答えるため、我々は金平糖の成長実験を系統的に行った。 その結果、球形の種から出発すると、種粒子の大きさに依らずごく初期には90本程度の 角が生えるが、成長とともに20本程度まで角の本数が減少し、やがて一定となる様子が明らかとなった。 このプロセスは、糖蜜の供給量(すなわち結晶成長の速度)など、実験条件の詳細にはほとんど 影響されないが、その一方で、粒子全体に糖蜜が行き渡らず、結晶表面が「乾いた」状況下では角は生えない。
こうした観察結果や統計データから、金平糖の角の形成においては、結晶粒子が混じり合う過程で 糖蜜が粒子から粒子へと受け渡され、結晶の表面が糖蜜をまとった状況が実現されることが 本質的に重要であることを示し、粒子の接触による糖蜜の受け渡しと、その間に同時に進行する ショ糖の結晶化の過程で角が発達していくシナリオを紹介する。 また、チューリングパターン等の他のパターン形成と比較した金平糖に独特の成長様式について 議論する予定である。
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第2回: 鳥インフルエンザ感染伝播モデル−−パンデミック予防に鶏虐殺は有効か?−−
講演者: 竹内 康博 氏 (静岡大学工学部)
日時: 2007年6月26日(火)午後4時30分から6時まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
H5N1 トリインフルエンザの人間社会における大流行(パンデミック)は,WHOを初め多くの専門家により確実に起こることが予想されている.この新型インフルエ ンザは,世界で数千万人が死亡し,日本でも60万人から200万人が死亡すると予想されている.その規模は20世紀初頭の (世界で4000万人の死者を出した) “スペイン風邪”の規模 を上回ることが危惧されている.現在は鳥から人間への感染が発生し,人間から人間への感染は起こっていないことになっている.この現状で,トリインフルエ ンザが鶏に発生した場合,インフルエンザを発症していない鶏を含めて周辺の鶏を全て殺処分する方針が採られている.現状ではこの方針は成功しているように 見える.しかし,人間から人間への感染が可能となるようにウイルスが進化し新型トリインフルエンザウイルスが出現した場合でも,鶏を全て殺処分する方針は パンデミック抑制のために有効であろうか?本講演では,この問題を議論するために,鶏社会と人間社会を結合した微分方程式系を構築し,その大域的安定性を 考察する.鶏を全て殺処分する方針は,かえってパンデミックの規模を拡大する場合があること,また一般的に患者の隔離政策がパンデミック抑制に有効である ことを示す.
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第3回: 生物個体群動態に関する差分方程式モデルにおける密度効果の数理モデリング
講演者: 瀬野 裕美 氏 (広島大学大学院理学研究科)
日時: 2007年7月10日(火)午後4時30分から6時まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
生物個体群動態(生物の個体群サイズ[総個体数や密度など]の時間変 動の様相) に関して,数理生態学の歴史においてほとんど独立に構築され,理論的研究に用いられ てきた非線形差分方程式系による離散時間モデルと非線形微分方程式系による連続時間 モデルの間の関連性を数学的に検討することによって,離散時間モデルや連続時間モデ ルの構造(関数形 etc.)の合理性[生物現象の構造との論理的な整合性]について体系 的に数理的な考察を行う。特に,有名なLotka-Volterra系微分方程式モデルの数理モデ リングに対応する差分方程式モデルの合理的な数学的構造について最近の結果 を紹介する。
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岩手大学において以下が開催されました.
10月11日(木)から12日(金)午前まで 杜の学校(チュートリアル形式)
10月12日(金)午後から13日(土) 盛岡応用数学小研究集会

第4回: サドルセンター型不動点を持つ球面N点渦系におけるカオス軌道
講演者: 坂上 貴之 氏 (北海道大学大学院理学研究院)
日時: 2007年11月6日(火)午後4時30分から6時00分まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
球面の上にあるN個の点渦の運動を考える。点渦の運動を 記述する方程式はオイラー方程式において渦度がδ関数的になっ ていると仮定して得られるN自由度ハミルトン力学系になっている。 低自由度の点渦系については様々な結果が知られているが、一般に 自由度Nの高い系の運動を数学的に扱うことは一般に困難である。 その一方、自由度Nが無限に大きい点渦の挙動としては点渦統計の 平均場理論があり、二次元乱流との関連も含めて活発に議論されて いるが、力学系としての大自由度点渦系の挙動と点渦統計の間の関係は 明らかではない。
本講演では、こうした問題にアプローチするための試みの一段階として、 大自由度ハミルトン系に埋め込まれた低次元縮約力学系を構成し、それ に対して非線形ハミルトン力学系理論のサドル・センター型の不動点の まわりに存在するカオス軌道の存在定理を応用し、メルニコフ関数や 不動点回りの安定・不安定多様体の直接数値計算などによりカオス的 軌道が存在することを見る。
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第5回: 細胞移動による形態形成−魚類錐体モザイクを例に− 
講演者: 望月 敦史 氏 (基礎生物学研究所・理論生物学研究部門/さきがけ・JST)
日時: 2007年12月11日(火)午後4時30分から6時00分まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
あ る種の魚類の網膜上では、異なる光波長に感度のピークを持つ複数種の錐体細胞(B、U、G、R)が周期的に現れ、モザイク状に配列する。魚種間で異なるパ ターンが、古くから報告されている。この形態形成メカニズムはまだ解明されていないが、形成過程において細胞が移動する可能性が、実験から示唆されてい る。そこで、あらかじめ分化した細胞が無秩序に配置された状態から、細胞再配列によってモザイクパターンが形成される可能性を数理モデルで検討した。格子 空間上で隣り合う細胞は、場所を入れ替えることで移動できるとする。細胞間には細胞種の組み合わせに依存した接着力が働き、より安定なパターンへの移動 は、より高頻度で起こるとする。解析の結果、細胞間に働く接着力の大きさが適当な値であるとき、実際に観察される魚類モザイクパターンが再現されることが 分かった。魚種間でのパターンの違いは、細胞の組み合わせに依存した細胞間相互作用の違いにより説明される。実際の魚類網膜でも、この条件をみたす細胞間 接着力が、働いている可能性がある。
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第6回: 拡散結合系のウェーブ分岐と時空間パターン
講演者: 小川 知之 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科)
日時: 2008年1月8日(火)午後4時30分から6時00分まで
場所: 東北大学理学部 物理A棟510号室
概要:
振 動場の反応拡散系や結合振動子系では一般に複雑な時空間パターンが現れる。その発生メカニズムのひとつとして『ウェーブ分岐』が知られている。ウェーブ分 岐とは、空間的に非一様なモードが一様な モードよりも先にホップ分岐して現れることである。一様定常解のまわりに限定すると2変数の反応拡散系ではウェーブ分岐は生じないが、3変数の反応拡散系 では生じ得る。結果として一様定常解から周期的な進行波やスタンディング波が出現する。また、2変数反応拡散系でも例えばパルス解の周りの分岐を調べると ウェーブ分岐が生じ得ることも知られている。その際に分岐する周期的な進行波はヘリカル波と呼ばれる。一般にウェーブ分岐は多重分岐の形で現れるので、ど のようなパターンが現れるかは様々である。一様定常解のまわりのウェーブ分岐での分岐構造の解析結果を紹介する。それにより進行波や複合進行波、スタン ディング波などのダイナミクスを理解することができる。さて、化学反応などの観点では反応拡散系のモデルは自然であろうが、神経ネットワークの振動などは 拡散結合振動子系モデルで考えるべきであろう。そこで、結合振動子系も対象としながら上記のことを議論する。
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世話人: 鈴木香奈子,高木 泉,柳田 英二
980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
東北大学大学院理学研究科数学専攻
電話: 022-795-6401, FAX: 022-795-6400