「パターン形成レクチャーシリーズ:Turing のアイデアの50
年」
最終更新日: 2003年2月19日
次回の講義
前期:
第0回 第1回 第2回 第3回 第4回
後期:
第5回 第6回 第7回 附録
1952年に出版された論文の中で A. M. Turing は「拡散誘導不安定化」と云う画
期的な考え方を提出し,パターン形成のメカニズムを統一的に理解する大きな枠組み
を与えた.この論文が出版されてから10年余りの間はさしたる進展がなかったが,
60年代後半からその重要性が深く認識されるようになり,反応拡散系とそれに関係
する分野として大きく成長した.特に,日本の研究者による寄与には著しいものがあ
る.
ことしは論文"The chemical basis of morphogenesis"の出版50周年を迎える.
これを記念して,毎月1回のペースでパターン形成の研究者による90分講演を企画す
る.
附録: パターントレック:次世代へ
講演者: 高木 泉 (東北大学大学院理学研究科)
日時:2003年3月6日(木)午前10時30分から12時まで
場所:東北大学理学部 数理科学記念館(24号室)
概要:これまでパターン形成レクチャーシリーズとして七つの講義を聴いてきた.
これらの講義は反応拡散系によるパターン形成の研究の最前線をそれぞれの切り口から語って戴いたものである.
今回は,附録として,この50年間の研究をごく簡単に振り返り,今後の発展の方向を探ってみたい.
ページの先頭へ戻る
第7回: 化学反応を伴う混合系における振動ドメインの形成と安定性
講演者: 太田 隆夫 氏(広島大学大学院理学研究科)
日時:2003年1月14日(火)午後3時30分から5時まで
場所:東北大学理学部 合同棟(802号室)
概要:
化学反応を伴う3成分混合系のモデル方程式を導入し、相分離で形成されるドメイ
ンの相互作用とダイナミクスを調べる。このモデルは有限波数でホップ分岐を起こす
のが特徴である。2次元数値シミュレーションによると、分岐点を超えたところで伝
搬する縞模様やスポットが現れる。伝搬するスポットは3角格子構造を形成する。伝
搬する縞構造と定在波としての縞構造の安定性を振幅方程式で解析する [1], [2]。
外から時間的変調を与えたときの伝搬構造の安定性と引き込みについても議論する[3
]。
−文献−
[1] T. Okuzono and T. Ohta, "Self-Propulsion of Cellular Structures in
Chemically Reacting Mixtures" Phys. Rev. E64 045201 (2001).
[2] T. Okuzono and T. Ohta, "Traveling waves in phase-separating reactive
mixtures" Phys. Rev. E (submitted).
[3] S. Sugiura, T. Okuzono and T. Ohta, Phys. Rev. E (in press).
ページの先頭へ戻る
第6回: 数理生態学に現れる反応拡散系の進行波解の速度について
講演者: 細野雄三氏(京都産業大学工学部情報通信工学科)
日時:2002年12月10日(火)午後3時30分から5時まで
場所:東北大学理学部 合同棟(802号室)
概要:
反応拡散方程式系は、数理生態学に現れる多様な現象を理論的に理解するために重要な役割を果たしてきた。
Lotka-Volterra系はじめとする数理生態学に現れる反応拡散モデルを取り上げ、生物種の侵入と伝播の様相を、進行波解を通して議論する。ま
ず、種の消長を表す進行波解の速度について、単安定な単独方程式の場合にどのように解析できるかを述べる。その後、2種系モデルについて、不安定定常状態
と安定定常状態を結ぶ進行波解の存在とその性質を解析し、その結果に基づいて、定着種がいる領域への他種の侵入、開放空間への2種の同時侵入等の現象につ
いて議論する。また、数理生態モデルと密接な関係のある化学反応系についても言及する。
ページの先頭へ戻る
第5回: Modelling pattern formation on growing domains (成長する領域におけるパターン形成のモデル化)
講演者: Philip Maini氏(Oxford 大学)
日時:2002年10月22日(火)午後3時30分から5時まで
場所:東北大学理学部 合同棟(802号室)
概要:
最近,領域が増大することがパターン形成の定性的変化に重要な役割を果たし得ることがわかってきた.この観点から古典的な
Turing
のモデルを考察し,成長する領域上のパターンの選択と遷移が領域成長の形状,速度,および反応ダイナミクスによってどのように決まるかを調べる.このモデ
ルを,二枚貝の靱帯形成,蝶々の羽や魚の色素パターン,などを含む様々な生物の例に応用する.
ページの先頭へ戻る
第4回: 「周期的分断環境における侵入生物の伝播パターンと拡大速度---拡散モデル」
講演者: 重定 南奈子氏(奈良女子大学 理学部情報科学科)
日時:2002年7月5日(金)午前10時30分から12時まで
場所:東北大学理学部 数理科学記念館(川井ホール24号室)
概要:
生物の多くは自分の子供を生むことにより自己再生産を繰り返しながら,同時に分散によってすみ場所を空間的に拡大していく性質を備えている.こうした生
物の分布域拡大過程は,従来,拡散増殖方程式を用いて説明されてきた(Fisher, 1937).中でも,イギリスのSkellam (1951)
がヨーロッパに侵入したマスクラットの分布拡大を理論的に説明して以来,拡散モデルは外来の植物,昆虫,伝染病などの侵入過程を説明するモデルとして多角
的に応用されてきている.
しかし,Fisherらの理論は元来1次元的に拡がる均質な環境の中での分布拡大を説明するモデルである.一方,現実の環境は多か
れ少なかれ空間的に不均一であり,繁殖や生存にとって好適な環境や不適な環境がモザイク状に広がっている場合が多い.とくに,近年ますます活発になる人為
活動によって,自然はいたるところ道路や農地によって分断化され,好適な生息場所が孤立化している状況が増えている.
そうした不均質環境を表す最も簡単な例として,帯状の好適環境と不適環境が交互に連なっている2次元分断環境の中での生物の分散過
程をFisher 方程式を拡張したGeneralized Fisher modelを用いて記述し,分布域の拡大過程を解析する試みを紹介する.
たとえば,初期条件として,原点に少数の生物が侵入したとき,彼らは不適な環境にさしかかると,そこをうまく通過して好適な環境に
たどり着かなければ分布域を広げることはできない.不適な環境の占める割合が多くなると,途中で絶滅してしまう可能性もある.そこで,まず,拡がるための
条件を求め,ついで,分布域の時空間パターンについて述べる.
とくに,侵入点から任意の動径方向への拡がりに注目すると,好適環境では速度を上げ,不適環境では速度を下げながら,十分に時間が
たつと,環境変化の周期単位で周期的に変化する周期的進行波に漸近する.この周期的進行波の速度を求めるheuristic
methodについて紹介する.
ページの先頭へ戻る
第3回:「非線形非平衡系に現れる時空パターン
---チューリングの側方抑制不安定の原理より---」
講演者: 三村 昌泰氏(広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻)
日時:2002年6月21日(金)午前10時30分から12時まで
場所:東北大学理学部 数理科学記念館(川井ホール24号室)
概要:
Spatio-temporal patterns in far from equilibrium systems
--- Turing's lateral inhibition instability ---
In 1952, A. Turing stated by using a simple reaction-diffusion equations that
"diffusion"
possibly enhances spatial inhomogeneity. His contribution is not to propose
concrete
models to understand morphogenesis in differential biology but to show
theoretically
a paradoxical fact of "diffusion" by using mathematical equations. In my
talk, I would
like to show some extension of Turing' idea to understand patterns arising
in far from
equilibrium systems.
ページの先頭へ戻る
第2回:「3種反応拡散系における Double Heteroclinic Loop Pulse と
遷移的不安定性」
講演者:西浦 廉政 氏(北海道大学電子科学研究所)
日時:2002年6月7日(金)午前10時30分から12時まで
場所:東北大学理学部 数理科学記念館(川井ホール24号室)
概要:
パラメータ空間において複雑時空パターンが生まれる縁(edge)付近では
ある種奇妙な秩序解が存在していることがある。そのような解の存在や
性質が複雑パターン出現の判定法に役立つ場合も多い。
ある3種反応拡散系に現われるパルスは非常に長い(理論的にはいくらでも
長い)振動的なプラトー領域を経て、背景状態に戻ることが発見された。
奇妙なのは、そのプラトー状態は本質的に不安定であるにも関わらず、
パルス全体として安定に存在し得ることである。これは力学系的には
Double Heteroclinic Loop あるいは T-point に関わり、偏微分方程式の
安定性の立場からは伝播不安定性(convective instability)、より正確には
遷移的不安定性(transient instability)と深く関わる。
ページの先頭へ戻る
第1回:「周期パターンと Eckhaus 不安定性」
講演者: 柳田 英二(東北大学大学院理学研究科 数学専攻)
日時:2002年5月17日(金)午前10時30分から12時まで
場所:東北大学理学部 数理科学記念館(川井ホール24号室)
概要:
反応拡散系などの非線形分布系において,空間的に周期的な定常状態が不安定化し,異なる空間周期を持つ状態に移行する現象を
Eckhaus
不安定化という.ここでは,このような現象を数学的に扱うための基本的手法について解説し,また(歪)勾配系における周期パターンの安定性に関する最近の
結果を紹介する.
ページの先頭へ戻る
- 第0回:「Turing の論文を読む」
- 講演者: 高木 泉(東北大学大学院理学研究科 数学専攻)
-
- 日時:2002年4月26日(金)午前10時30分から12時まで
- 場所:東北大学理学部 数理科学記念館(川井ホール24号室)
-
- 概要:
- A. M. Turing, "The chemical basis of morphogenesis", Phil. Trans. Roy.
Soc. London Ser. B 237 (1952), 37-72
の紹介.
ページの先頭へ戻る
世話人: 高木 泉, 柳田 英二
980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉
東北大学大学院理学研究科 数学専攻
電話:022-217-6411, FAX: 022-217-6400